虫歯と歯周病は生体防御反応の一つ

「なぜ1本だけ虫歯になるのか?」で、噛み合わせバランスの変化が虫歯の原因の一つになると書いたか、歯周病についても同じことが言える。力学的に応力が集中した歯は、虫歯菌に冒されやすいのと同様に、歯周病菌にも冒されやすくなる、というのが考えである。

これを体全体から考えてみると、虫歯や歯周病になって助かっているという面もないではない。虫歯になって歯が欠けたり、歯周病になって歯が揺らいでくれば、当然のことながら噛み合わせは変わってくる。歯周病ならば、それまで応力が集中していたのが、歯がグラグラと動くことによって応力を逃がすことができるようになり、結果、全体的な噛み合わせのバランスは向上する。

もし、歯周病や虫歯にならずに、がっちりとした歯のままでいたとしたら、どうだろう。悪い噛み合わせもそのまま続き、体のどこかにしわ寄せがいくことになる。場合によっては、内臓や神経に多大の悪影響を及ぼしかねない。そう考えてみると、歯周病は歯石と同様、一種の生体防御反応と言っていいかもしれない。歯を一本犠牲にすることによって、体全体を守っているわけである。

生体にとって、特定の歯に過剰な負担がかかるのは避けたいものである。そこで、負担を解消するために歯をグラグラさせ、全体的なバランスを崩さないようにしている。そしてその結果、負担のかかっている歯や歯茎に、細菌が集まるようになるのかもしれない。

歯周病はたしかに嫌なものだが、考えようによっては、歯周病になれるタイプの人は幸せなのかもしれない。なぜなら、歯周病になれないタイプの人は、噛み合わせが狂ったままの状態、つまり、特定の歯に過剰な負担かずっと加わりつづける。それによって、知らず識らずのうちに体に変調をきたし、慢性病や難病を惹き起こしかねないからである。

もちろん、歯周病になることを推奨しているわけではないし、治療をするなと言っているわけでもない。ただ、治療するときには噛み合わせに充分注意しなければならない。噛み合わせの調整を怠ったまま固定するような治療を行うと、せっかくの歯がグラグラし、全体のバランスを保つという生体防御反応が起こったにもかかわらず、悪い噛み合わせを助長してしまうことになる。こうなると、歯周病の治療とは言えない。

— posted by Denis at 12:54 am